手術支援ロボット ダビンチSPによる 国内初の「乳頭乳輪温存乳房全摘出術」を施行
乳腺外科は、手術支援ロボット「ダビンチSP」を用いた乳頭乳輪温存乳房摘出術(R-NSM)を施行しました。先端ロボット・内視鏡手術学(宇山一朗教授)、乳腺外科(喜島祐子教授)、形成外科(井上義一准教授)の領域横断外科チームにより2024年4月に第1例目、同6月に第2例目を行いました。
多孔式(マルチポート)のダビンチXiを用いた症例は他病院で報告されていますが、単孔式(シングルポート)のダビンチSPによる同手術は、国内で初となります。
根治性・安全性・整容性の両立 ダビンチSPで乳がん手術の課題をクリア
早期の乳がんに対しては、乳頭乳輪温存皮下乳腺前切除術(NSM)を実施してきました。乳房表面の皮膚・乳頭 乳輪を残しつつ、皮下乳腺を全切除する手術です。乳房外側の切開部から丁寧に手術を進める必要があり、とくに 乳房の内側領域を安全に処理するためには皮膚を強めに牽引したり、場合によっては切開線を長くする、乳輪縁に 別の切開をいれる必要があるという課題がありました。 これらの課題解決に向け、当科では2022年2月に導入したダビンチSPの活用を検討。一般的に普及しているダビンチXiが4本のアームで構成されるのに対し、SPは1箇所の切開創(ポート)から、複数の鉗子による手術操 作が可能なうえ、その切開創が3.0-3.5cmで済むために整容性が確保できるというメリットがあります。術者に おいては、ダビンチ初の2関節を有する軟性鏡(カメラ)と、自由に屈折する専用鉗子が、乳房の内側へのアプローチを容易にし、より安全安心な手術が可能になりました。
乳頭と乳輪を残し、より自然な乳房再建が可能に
今回の手術では、脇の下を3㎝ほど切開してダビンチSPのカメラ(内視鏡)や専用鉗子 を挿入し、乳頭と乳輪を残したままでがん病巣と乳腺をすべて摘出しました。R-NSMに引き続き、人工乳房(シリコン乳房インプラント)を用いた乳房再建を実施しました。従来の方法は乳腺摘出後に、大胸筋と小胸筋の間にティッシュ・エキスパンダー(TE)と 呼ばれる皮膚拡張器を挿入し、後日シリコン乳房インプラントに入れ替える一次二期再建です。一方、乳腺が摘出された皮膚と大胸筋の間にシリコン乳房インプラントを入れ る再建法は一次一期再建に分類されます。一次二期再建では、ティッシュ・エキスパンダー(TE)に少量の生理食塩水を注入し、2~4週間に1回、約半年かけてその量を増やしながら、少しずつ皮膚および大胸筋をのばしていくことで、左右バランスの良い自然な乳 房を再建するのが特徴です。約半年後、両乳房のバランスが整ってきたらティッシュ・エ キスパンダー(TE)を手術で取り出し、そこにシリコン乳房インプラントを留置することで、再建の工程が終了します。一次一期再建では皮膚の直下に人工物を挿入するため、皮膚および乳頭乳輪の血流が十分に保持されていることが必須になります。また、シリコン乳房インプラントを特別な医療用皮膚で被覆する必要があります。当科では、2024年4月のR-NSM開始以来、3例に対して一次二期再建、5例に対して一次一期再建を実施しました。 すべての症例において安全に実施され、良好な整容性が得られています。 尚、本手術の適応は、がんステージが0期およびⅠ期で、がんの位置やタイプ、乳房の形など、さまざまな要素を 検討した上で決定します。遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)に対する予防的切除にも対応可能です。