消化器内科の上部消化管について
当院消化器内科の上部消化管グループでは、経験豊富な医師のもと頻度の高い疾患のみならず、確定診断が困難な稀な疾患まで幅広く診療しています。当院は豊明市、名古屋市緑区、天白区など近隣の地域を中心とした救急診療を担う特徴から、上部消化管領域では出血性胃十二指腸潰瘍や食道静脈瘤破裂に対する緊急内視鏡的止血処置を行うことも多いです。また食道癌、胃癌などの腫瘍疾患に対する診療に力を入れており、拡大内視鏡、超音波内視鏡を用いた精度の高い内視鏡診断を行い、適切な治療マネジメントを心がけています。総合消化器外科とも緊密に連携していて、外科手術への移行も円滑に行われています。また消化器内科医のリクルートと教育、大学独自の学術研究、学会活動、市民公開講座、日本消化器内視鏡学会が主導する女性内視鏡医師キャリアサポートへの協力などを通じて社会へ貢献をしています。
上部消化管を担当する医師は月~土曜日まで毎日外来診察を行っていますので、緊急性のない場合は事前に地域連携室を介してご予約下さい。
食道疾患
早期食道がん
拡大内視鏡を用いた早期食道癌の診断や、食道粘膜下層剥離術(ESD)を積極的に行っており、年間約40症例を安全に偶発症なく治療しています。当科の食道ESDの安定した治療については論文報告しています。
進行食道がん
手術ができない状態で見つかった食道癌、いわゆる切除不能進行食道癌に対しては、従来からある化学放射線療法のほかに、2021年から使用可能となった免疫チェックポイント阻害(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブ)による一次化学療法を積極的に行っており、手術に移行できた例や癌が消失した完全奏功(CR)例を経験しています。
食道粘膜下腫瘍
プローブ型と一体型を用いた超音波内視鏡(EUS)診断を行います。初回の診断で10mm以上の場合、サイズが増大するような場合は一度EUSをご検討ください。必要に応じてEUS-FNAや切開生検による組織診断を行っています。
食道機能性疾患
薬剤抵抗性のNERD、食道アカラシア疑い、つかえ症状でご紹介いただく患者さんに対し、高解像度食道マノメトリ(HRM)を用いた食道内圧測定と食道造影検査を行っています。ジャックハンマー食道やびまん性食道痙攣など、他の食道蠕動異常もHRMを行うことで診断が可能です。食道アカラシアに対しは、40歳以上の方には積極的に食道アカラシア用バルーンによる拡張術を行っています。
胃疾患
早期胃がん
最近の傾向として、Hp陽性胃がんが減少し、低異型上皮に被覆されていて診断困難なHp除菌後胃がんや、Hp陰性胃粘膜から発生した胃底腺型胃がんが増加してきています。当院では、拡大内視鏡や超音波内視鏡を用いた正確な内視鏡診断を行っています。診断困難な症例や、生検でGroup2(胃癌あるいは胃炎)と診断された症例など、精密診断が必要な症例について是非ご紹介下さい。また、早期胃がんに対しては、胃ESD治療を積極的に行っています。
進行胃がん
手術不能進行食道癌に対しては、各バイオマーカー(HER-2, PD-L1, MSI-H, CLDN18.2)を確認後に免疫チェックポイント阻害(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)や分子標的薬剤(トラスツズマブ、ゾルベツキシマブ)を併用した一次化学療法を積極的に行っています。従来の化学療法と比べて治療効果が向上し、手術に移行できた症例も経験します。また、標準的薬物療法の効果が不十分であった症例については、がんゲノム診療科と協力して『がん遺伝子パネル検査』を行い、遺伝子変異の組み合わせから適切な治療の検討も行っています。
胃GIST、粘膜下腫瘍
超音波内視鏡(EUS)を用いた画像診断を行い、適応があれば超音波内視鏡下穿刺生検(EUS-FNA)や粘膜切開下生検による組織診断を行っています。また、壁内発育型GISTに対しては、当院外科と協力して、腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)を行い、より低侵襲な治療を提供しています。
ヘリコバクター・ピロリ菌
1次除菌・2次除菌で不成功であった症例に対しては、自費診療となりますが3次除菌を積極的に行っています。
十二指腸疾患
十二指腸がん
最近、増加傾向にある十二指腸がんに対して、浸水下での内視鏡的粘膜切除術(under water EMR)やESD治療を行っています。特に腫瘍径が大きい病変に対しては、術後の遅発性穿孔予防の目的で、総合消化器外科と協力し、LECS治療を行っています。
十二指腸神経内分泌腫瘍(NET)
10㎜以下の病変に対して、内視鏡切除(EMR)を行っています。新しい治療として、外科切除困難なNETに対して、ソマトスタチン受容体陽性であれば、放射線科と協力してルタテラ治療(ベータ線を放出する放射性物質ルテチウム‐177)を用いた治療が可能となっています。