呼吸器外科

呼吸器外科では、肺・気管・気管支・縦隔(じゅうかく)・胸膜・胸壁・横隔膜など心臓・大血管・食道・胸椎以外の胸部の疾患の中で、手術を含む外科的処置が必要なものを取り扱います。検診で胸に影があると言われたり、胸が痛んだり、息切れや呼吸困難、継続する咳や痰、血痰などの症状がある場合には、呼吸器外科での診療が必要な疾患の可能性があります。
主な対象疾患は、原発性肺癌、転移性肺癌、縦隔腫瘍、胸壁腫瘍、気胸、肺嚢胞、膿胸、胸部外傷、悪性胸膜中皮腫、肺アスペルギルス症です。これらに対して最善の外科診療を行うために、呼吸器内科、麻酔科、心臓血管外科、放射線科、病理診断科、歯科、リハビリテーション科など関係各科、手術部、ICU・HCU、外来・病棟看護師、Fujita Nurse Practitioner、臨床検査部、薬剤部、食養部などと密接に連携し診療を行っています。慎重な手術適応検討や術前検査、術前管理によりできるだけ安全で確実な治療を行い、苦痛の少ない入院生活と早期退院を目指します。

スタッフ紹介

教授
  • 星川 康
准教授
  • 松田 安史
助教
  • 鈴木 大和
  • 河合 宏
  • 石沢 久遠

教授紹介

  • 高精度でやさしい呼吸器外科診療
    中部地方初の肺移植実施に向けて

    星川 康

    教授

    Yasushi Hoshikawa

    星川 康

    専門・実績

    日本呼吸器外科学会指導医、呼吸器外科専門医、気管支鏡指導医・専門医、日本移植学会認定医、日本呼吸器外科学会認定ロボット支援手術プロクター、日本臓器保存生物医学会理事、日本呼吸器外科学会評議員・総合診療対策委員会委員・呼吸器外科専門医合同委員会書類審査実務部会部員・学術委員会学術調査部会部員・NCD委員会委員、日本胸部外科学会評議員・国際委員会委員、日本移植学会代議員、日本外科学会邦文誌編集委員会委員
     

    アピールポイント

    前任地の東北大学病院で15年間肺移植診療に携わり、肺移植手術・術後急性期重症管理・慢性期管理・脳死ドナー肺評価・管理、ドナー肺摘出術などに従事する一方、局所進行肺癌・悪性縦隔腫瘍・悪性胸壁腫瘍や膿胸・肺アスペルギルス症などの難治性胸部感染症の外科診療、超高齢者や併存疾患を有する患者さんのより安全な周術期管理法開発に取り組んでまいりました。
    2016年5月藤田医科大学医学部 呼吸器外科学 主任教授・藤田医科大学病院 呼吸器外科長として赴任し、肺癌や縦隔腫瘍に対する体にやさしく(低侵襲)、精度の高い手術(胸腔鏡下手術、ロボット支援手術)に取り組んでいます。2020年3月には日本呼吸器外科学会認定ロボット支援手術プロクター(手術指導医)を取得しました。当科医局員・学内関連部門と力を合わせ、低侵襲・高精度手術を発展させ、超高齢者や併存疾患をもつ方にもやさしい呼吸器外科診療を継続して提供いたします。進行した特発性間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患などの終末期肺疾患患者さんに肺移植を提供するために、肺移植実施施設認定申請を行い現在審査を受けています。今後、呼吸器内科・外科からなる呼吸器センターの総力をあげて肺移植に取り組んでまいります。

当科の特徴

高精度で、体にやさしく、痛みの少ない手術(高精度・低侵襲手術)を提供します。

呼吸器外科では、原発性肺癌、転移性肺癌、縦隔腫瘍、胸壁腫瘍、気胸、膿胸、悪性胸膜中皮腫、肺嚢胞、肺アスペルギローマ、胸部外傷などに対して手術を含む外科治療を行います。手術アプローチとして、①開胸手術、②胸腔鏡下手術、③ロボット支援手術(ダヴィンチ手術)があります。

①開胸手術:進行肺癌で、胸壁などの周囲の臓器を合併切除する場合、肺と胸壁あるいはリンパ節と血管が強固に癒着している場合などには、開胸手術を行います。側胸部を12〜20cm程度切開して術者の手が胸の中に入るようにして手術を行います。また、縦隔腫瘍が周囲の大血管に浸潤している場合は、胸の正中を切開し胸骨を割って開胸する方法(胸骨正中切開)で手術を行います。

②胸腔鏡下手術:径5〜10mmの胸腔鏡(カメラ)を胸腔内に挿入して、カメラの画像を映し出したモニターを見ながら、胸に開けた小さい穴から器具を入れて手術を行います。当科の肺癌手術では約90%の症例を胸腔鏡下手術で行っています。

図1:手術中の写真。胸の中に胸腔鏡(カメラ)を挿入してモニターを見ながら手術を行います。

③ロボット支援手術:手術支援ロボット da Vinci (ダヴィンチ)を使用して4〜5つの小さな創のみから手術を行います。胸部に小孔を開けて、人の手を上回る動きが可能な多関節のダヴィンチ鉗子をセッティングします。術者は、コンソールと呼ばれるユニットで10倍視の3Dモニター下にこの多関節の鉗子を操作して高精度の手術を行います。2020年4月現在、原発性肺癌や転移性肺癌に対する肺葉切除と区域切除、縦隔腫瘍手術、重症筋無力症に対する拡大胸腺摘出術が保険適応です。

図2:ダヴィンチ コンソール。術者が、10倍視の3Dモニター下にダヴィンチを操作するユニットです。

図3:ダヴィンチ手術中の写真。助手2〜3名が患者さんの傍で、ダヴィンチ鉗子の交換、術野吸引、展開の補助などを行います。

図4:開胸、胸腔鏡、ロボット支援手術における創(ポート孔配置例)

主な治療成績

年間手術件数

胸腔鏡下手術の割合(%)

疾患別手術件数(2019年度)

参加している臨床研究・治験

  • 藤田バイオバンク:2019年より原発性肺癌の臨床研究の推進を主な目的としたバイオバンク事業が開始されています。

本科で診療実績のある主な疾患例

原発性肺癌

呼吸をする時に空気が通る道筋を気道(きどう)と呼びます。気道の中で気管支から肺胞に至る部分が肺と定義され、肺に発生するがんの全てが肺癌とされます。肺癌の原因として、現在のところはっきりしているのは喫煙です。今や日本人の二人にひとりががんになるとされていますが、2017年1年間に日本で12万4千人以上が肺癌になり (がん罹患数の第3位)、44,140件の手術が実施されています。肺癌の治療法は原則的には病期(病気の進行度)によって決められます。加えて、癌の特徴、年齢、これまでにかかった病気(既往症)、現在かかっている病気(併存症)、臓器(特に肺と心臓)の機能や健康状態に基づいて、慎重に治療法を選択します。肺癌の治療法には、外科療法、放射線療法、抗癌剤による化学療法、免疫療法、痛みや他の苦痛の緩和を目的とした緩和療法などがあります。手術は主としてI期とⅡ期に対して行われますが、Ⅲ期(癌がある側の縦隔リンパ節転移がある、あるいは周囲臓器に浸潤している場合)であっても手術療法を選択する場合があります。肺癌に対する標準術式は、癌の存在する肺葉の切除と所属リンパ節に転移がないかどうかを確認するためのリンパ節郭清術から成ります。I期及びⅡ期の肺癌では、主に胸腔鏡下手術あるいはロボット支援(ダヴィンチ)手術によりこの標準手術を行います。多くの患者さんが術後6〜7日で退院なさいます。

図5:原発性肺癌(右上葉肺癌)の胸部レントゲン写真と胸部CT。矢印は原発性肺癌を示しています。

一方、胸壁などにがんが浸潤したⅢ期の進行肺癌では、がんのある肺葉に加えて肋骨を含む胸壁を一緒に切除するような拡大手術を行います。

図6:胸壁へ浸潤した原発性肺癌の胸部レントゲン写真と胸部CT。矢印は原発性肺癌が胸壁へ浸潤しているところを示しています。

気胸

肺とその入れ物である胸郭に囲まれた部位を胸腔と言います。気胸とは肺から空気が漏れて、胸腔に溜まった状態をいいます。この時、漏れた空気は肺を押すため肺は伸展できなくなり息が苦しくなったり、胸(肺には痛みの神経はありませんので、痛むのは胸壁側です)に痛みが出たりします。手術では、1〜3つの小さな創から胸腔鏡下に、空気が漏れる原因となっている肺の一部を切除したり(部分切除)、空気もれの再発を予防するために肺表面を吸収性シートで補強したりします。ほとんどの方が術後2〜3日で退院できます。

図7:左気胸の胸部レントゲン写真。矢印は気胸により虚脱した肺を示しています。

転移性肺腫瘍

肺は悪性腫瘍が転移しやすい臓器の一つであり、各臓器に発生したがんが、血流を介して肺に転移したものを転移性肺腫瘍(転移性肺癌)と呼びます。転移性肺腫瘍に対する治療は原発巣(最初にがんが発生した臓器)の特徴により様々ですが、外科的切除も一つの選択肢です。1) 原発巣治療後局所再発がないこと、2) 肺以外の臓器への転移がないこと、3) 肺転移巣の完全切除が可能なこと、の3つを全て満たした場合に手術適応と考えます。手術は主に肺転移巣を周囲肺組織とともに楔状に切除する肺部分切除術を行います。術後2〜4日の入院期間を要します。

図8:転移性肺腫瘍の胸部レントゲン写真と胸部CT。矢印は転移性肺腫瘍の結節を示しています。

縦隔腫瘍

横隔膜より頭側(上方)で左右の肺に挟まれた部分を縦に隔てると書いて縦隔(じゅうかく)と呼びます。そこに発生した腫瘍が縦隔腫瘍です。縦隔腫瘍には、胸腺腫、神経原性腫瘍、胚細胞腫、胸腺癌、気管支嚢胞など様々なものが含まれますが、最も多いのは胸腺腫です。胸腺は胸骨の裏、心臓の腹側の前縦隔にあり、免疫に関するリンパ球を成熟させる臓器です。成人になると退化して脂肪組織になりその働きを終えますが、胸腺腫はこの退化した胸腺の細胞から発生します。胸腺腫は肺癌と比べると悪性度の低いものが圧倒的に多いのですが、進行すると周囲の臓器に浸潤したり胸の中に散らばったり(播種)する性質を持ち、悪性腫瘍に分類されます。手術が最も治癒の期待できる治療法です。主に胸腔鏡下手術やロボット支援(ダヴィンチ)手術により1〜4つの小さな創から胸腺ごと腫瘍を摘出します。術後2〜4日の入院を要します。周囲の血管などへの浸潤が見られる場合には胸骨正中切開で手術を行います。

図9:胸腺腫の胸部CT。矢印が胸腺腫の腫瘍を示しています。

膿胸

膿胸は、胸腔内に膿性の液体がたまった難治性感染症です。外傷や肺炎に起因して発生したり、肺癌術後に発生したりします。発症から3ヶ月以内を急性膿胸、3ヶ月以上経過し肺の表面に何層もの膜が作られて肺が本来の形に伸展することができなくなったものを慢性膿胸と呼びます。治療は、まず胸腔ドレナージと抗菌薬の点滴静注を行います。血中から析出したフィブリンによる不溶性の線維性被膜が形成されていることが多いため、必要に応じてフィブリンを溶解する薬剤を胸腔内に注入しますが、それでも改善しない場合には胸腔鏡下に胸腔内の汚染物質を掻き出す手術(搔爬術)を行います。慢性膿胸では、膿胸腔を清浄化し消滅させるために、開窓術や胸郭成形術、筋弁充填術などの手術、胸腔ドレナージに加え、栄養管理・リハビリテーション・口腔ケアなど全身状態を改善させる補助療法を駆使して治癒を目指します。入院治療期間は数週間〜時に数ヶ月に及びます。

図10:左膿胸の胸部レントゲン 写真と胸部CT。矢印は膿胸部分を示しています。